せとうちMeetup 文化、アート、里山との生き方 里山資本ラボ@神石高原(Vol.2) 開催レポート
2021年4月3日(土)14時より、「せとうちMeet up 文化、アート、里山との生き方 里山資本ラボ@神石高原Vol.2」を開催しました。広島県東部の神石高原町で生活を楽しんでいらっしゃる方々の集まり「神石高原楽人の会」の活動の場を訪問して交流するオンラインツーリズムイベント。2回目の今回のホストは、神石高原町で、「陶ときやす」を主宰されている藤田毅さんです。陶芸をゼロから学び、神石高原町へ移住後、穴窯も自作した藤田さん。本日は、その自作の穴窯での窯焚(かまたき)を案内していただくとともに、その中で、陶芸を始めた経緯、陶芸や穴窯について今考えていること、地域との関わりの中で移住者として考えることなどをお話しいただきました。藤田さんのお話を聞く中で、人や素材、環境といった地域の資源を活かして、自身のやりたいこと実現していくことやそれを事業として成り立たせていくことについて、参加者の皆さんと対話を重ね、考えるセッションとなりました。
イントロダクション、チェックイン
まずは、参加者の自己紹介から。今回も様々な地域や分野の方々、10数名の御参加をいただきました。
今回は、神石高原町の陶ときやすの工房の中継からスタート。福山駅前のOruとも繋ぎ、簡単な趣旨説明と神石高原町の概要説明。
〇神石高原町の概要
神石高原町は、人口8,670人 (2021年3月)。広島県の東部に位置。中国山地が広島県東部で南に張り出した高原地形の中に位置しており、標高は400~500mとなっている。備後の中心都市である福山市までの距離は約30km。平成16年11月5日、油木町、神石町、豊松村、三和町の4町村が合併して「神石高原町」が誕生した。トマトやぶどうなどの青果、キノコ、神石牛といった素材そのものから加工食品まで多くの名産品がある。
藤田さん自己紹介
茨城県出身。大学卒業後、鉄鋼会社に入社。奥さんも器が好きで、各地の産地を訪ねて器を集めていた。特に、桃山時代などの古い陶器に魅せられて、器の展覧会や美術館等を巡るうち、器の世界にのめりこんでいった。2014年に鉄鋼会社を退社し、奥出雲陶芸研究所に入所。他の学生と交流しながら2年間陶芸を学んだ。2018年に、ここ神石高原町時安(ときやす)に工房と穴窯を築いた。一昨年、昨年とここで個展を開いたりしている。
「陶ときやす」の取組の紹介
2018年、標高600mの神石高原町時安(ときやす)に工房を構え、穴窯を自ら設計し1年かけて築窯。
主に信楽と唐津の土を使い、穴窯で焼成している。
器は料理や草花などと一緒になってその良さが際立つ。やはり使われてこそ器と思う。効率重視の世の中で、私の製作スタイルは、手間がかかり効率の良くないやり方かもしれないが、日常生活に寄り添い、いつまでも手元に置いておきたい器を目指して作っている。
うちの器を見て、料理一品や一凛の花などを合わせたいと感じていただけたら嬉しい。
器の製作について
陶ときやすでは、唐津と信楽を主に手掛けている。
・今回の窯焚きは信楽が中心。時間を掛け、灰がいっぱいかかるようにしている。
・粘土は自分で掘れれば一番いいが、業者から信楽や唐津の土を仕入れている。ただ、業者からの土をそのまま使うのではなく、ブレンドして、自分なりに調合して、味が出るようにしている。
・ろくろ整形で主に器を成形している。一日に多い時で30個くらい。職人さんは100個くらい作るところもあるが、薪の準備、釉薬や灰の調合など、ほかの作業に時間を掛けている。
・成形した器を電気窯で素焼きし、その後、薪窯(穴窯)で焼く。
・電気窯は、素焼きなら200個、作品だと80~100個くらいを一度に焼ける。歩留まりが良くなくて、全部が上手く焼けるわけではない。再度、電気窯で焼いて、もう一度薪窯で焼くときもある。
・1,250度で釉薬が解ける。薪窯は1,350度まで上がるが高いと釉薬が解け切って落ちてしまうので、作品にならない。温度調整が難しい。
・薪窯の中の温度の様子は毎回変わる。置いた作品の状態で後で、このくらいの温度だったかなというのが分かる。次に焼く時にその経験をいかすというフィードバックの繰り返し。
自作の穴窯へ
続いて、工房から穴窯へ移動。敷地は広く、工房から穴窯まで、庭を登っていく感じ。きれいに整備された庭を移動して穴窯へ。
・今日は火入れをして2日目。窯の温度も上がってきた1,200度を超えた。灰をたくさんかけるために、長時間、高温をキープして灰のかぶりをよくするようにしている。
・この穴窯を自作した。陶芸を学んだ学校の窯を参考にして窯の基本的な構造は自分で作った。土壁と同じ土を使って上塗りして2か月置いて、仕上げ。その上に煙突をつけたりして、完成までに1年くらいかかった。
・最初の2回の窯焚きは手探り状態。2回とも温度が上がり切らず思うようにならなかった。3回目からコツをつかみ、温度が上がるようになった。
・穴窯と登窯の違いについて、穴窯は、窯の中の空間が、どんと抜けている。窯の中で温度等の状況が随分変わるので、変わった作品を創ろうと思ったら、穴窯の方がよい。登窯は、内部の空間が壁で仕切られている部屋を分けるようにしている。空間を小さく分けた方が、温度が均一になるので、均一的に器を作りたければ、登窯の方が向いている。
〇質疑応答
問:移住先は、ほかには考えなかったのか。信楽とか。
答:移住先に信楽は考えていない。そもそも福山に自宅があり、妻と相談して、近くて、涼しい、煙で迷惑を掛けない場所という事で、神石高原町を選んだ。
問:土を唐津と信楽から仕入れているとのことだが、中国山地にも適した土がないのですか。福山には昔、姫谷焼とかがあったが、その土とかはどうですか?。
答:土は気になっているので、近くのものでサンプルが取れたらいいなと思っている。
問:焼成中の壺の表面温度は何度くらいか?。
答:詳細には分からないが、検温用のコーンを置いていて、それが倒れたら何度というように分かるようにしている。1,280度、1,300度くらいは上がっている。火前のツボの温度はそれくらい。
問:釉薬は地元の草木灰や鉱物は使えないか?。
答:使えると思うが、先に、他にやってみたい焼き物があるので、その焼き物の釉薬を先に検討して、余裕があれば取り組んでみたい。
問:穴窯と登窯で出来上がるものはどのように違うのか。
答:登窯は均一的なものができる。穴窯はちょっと変わったものができるという感じ。穴窯の方が、いろいろな作品が取れるし、面白い作品が取れる。
ギャラリーへ
続いて、作品が展示してあるギャラリーへ移動。
・ギャラリーの名称は、「ギャラリーつばき」。この建物は、前に御夫婦で使われていた方がいて、もともと「つばきの家」という名前があった。その名称も引き継いだ。新しい建物なのでそのまま使わせてもらっている。
・陶芸の専門学校の学生時代からの作品も含め、ここで製作した信楽や唐津を中心とした作品を展示販売している。種類は、壺、花入、茶碗、香炉、食器、酒器といったところ。信楽や唐津の気に入っている特徴を両方取り入れて作品を作ってみたり、楽しみながら試行錯誤してみたりもしている。
・妻の関わっているブランドのアクセサリーも展示している。ブランド名は「glamour glamour(グラマーグラマー)」といって、福山から来て買われる方も多い。男性も付けられる。小物の懐紙入れに宝くじを入れていたら当たったとか(笑)。アクセサリー、小物、小物が入るバックなどがある。
・年2回窯焚の後に、大規模の展示会を妻のアクセサリーと一緒にここで行う。同時に常設展ギャラリーとして、御予約を入れた方が入って来れるようにしている。御予約いただいたら、常時受け入れている。
・この蕎麦猪口だが、お勧めだし、よく売れる。小鉢のような使い方もできるし、アイスやフルーツなど何を入れても絵になる。コーヒーからお茶まで用途を選ばない。
フリーダイアログ
問:生計は焼き物の販売で賄われているのか。
答:事業を立ち上げている最中なので、正直、それは難しい。販売の方にそろそろ力を入れていく感じ。
問:神石高原だから、こういったところが助かっているというようなことがあるか。うまくいっていることとか。
答:他との比較は難しいが、窯焚をするのに薪の調達が大きな悩みとなるが、ここに来て、周りの方が、木の無駄な物を伐採しているので、そういうものを利用させていただいて、非常に助かっている。特に松が非常に簡単に入手できる。他の地域ではかなり難しい。備前焼の窯元も、松の薪は神石高原町内から全部送っている。九州の窯元も、神石高原から松を供給している。今回、松の薪の大半も、椎茸の栽培で原木の管理に邪魔な松を切り倒して放置していたものを活用している。非常に助かっている。
問:レストランとか器にこだわる料理の専門家とかにこうした器は需要があるのではないか。また、和菓子とかお茶とセットで器を取り扱ってもらうとか、そうしたコラボレーションも面白いかもしれない。ここの器に関する外部への情報発信はどのようにしていますか。?
答:家庭やお料理屋さんどんどん使っていただけたら嬉しい。福山にも、古民家を改装したお店に使ってもらっている。物も揃ってきたので、外販していきたい。
問:窯の管理の面白さとは?。
答:電気窯では得られないものが得られる。それがやりがい。前の職場で、いろんな開発していた。ちょっと変わったデータが取れるのは、変わった条件が出た時。チャンピオンデータというか、特異点がでるのが穴窯などの薪窯。予測できたものができるというのも重要だが、予測しないものができるのが穴窯などの薪窯の良さ。
狙ったところに合わせるだけだと面白くない。自然とやり取りしながら、特異なものを狙って作るのが面白い。
〇藤田さんから質問
藤田さん:皆さんは器に興味があるか。普段の食卓を変えたい時に使うなど器を意識しているのか、それとも普段の食事はあまり気にせず食べられればいいのか、器についてどんな意識を持っているのか聞いてみたい。
答:主婦としては、仕事もありいつもは適当に済ませることも多いが、特別な日の食事は、器も含めて食事を非日常として楽しみたい。普段は、いいお皿だと扱いとか洗い方など気になることが増えるので、簡単になってしまう。
藤田さん:外食のときなどには特別な体験を期待しているのか。
答:外に食べに行くとき、器とかが料理に合っていると、お店のこだわりが感じられる。日常では、器までなかなか気が回らないが、ゆっくりできる日は、家できれいに盛りつけたりするのは割と好きな方なので。
答:家庭では、洗いやすい年季の入った普段使いの器を使っている。家内は器を選んで買っている。あと、家族が作った器をメインに使っている。
答:体感だが、コロナの影響で自分時間が増えた感じを受ける。お茶とか自分が興味を持つものへの関心が高くなり、お茶関係の器をよく買うようになったり、自分時間のときに使う器にお金を使おうと思う人が増えたというか、体感でそんな感じを受ける。
答:コーヒーを入れるのが好きで、ドリッパーっていろんな種類がある。プラスチック製が多い中で、焼き物のドリッパーが欲しい。そしてフィルターがいらないのが欲しい。注文して作ってもらったのがあるが、ドリッパーって中の形状で味が変わるので、面白い。
藤田さん:私のところでも試作したものがあります。ある方から頼まれて、マグカップに直接置けて、覗き窓があって、というのを依頼されて、試作したものです。素焼きの物も作ってみたがまだ使ってない。
答:中が見えるガラスのものが一番よい。陶器の物も使えるが、形状が平らなので、味わいが濃いものが出るはず。
答:食事に合わせて器を選んだり、器に合わせて料理を作ったりする。普段の食事に備前焼なども使っている。
藤田さん:料理で、おいしさ、味は3割。においと見た目が残りの7割だそうだ。器って大事だなと思っている。
クロージング:参加者の思いを共有
・ギャラリーなんかも充実していてすごいと感じた。使ってもらえる器にこだわるという製作姿勢も伝わってくる。生計が気になっていたが、美術商、デパートの個展とかに出したりといった販路の開拓方法もあるので検討してほしい。
・朝ドラのスカーレットよく見ていた。ドラマと一緒だなと思いました。ビジネスとして成り立たせるのは壁もあると思うが、応援したいと思いました。素敵です。
・焼き物もだし、工房のある環境も素敵でいいところですね。窯も見てみたい。
・こんなところがある、こんな人がいるといった発見があって驚きです。ぜひ伺いたい。
・現地で映していて、つい風景を映してしまう。この風景の中で暮らしながら仕事ができるということもいいと思う。窯は、熱くて、音があって迫力がある。火を入れる前の窯の様子を見たが、窯の中は作品がぎっしりで、位置によって作品の出来も変わってくるので配置の工夫も大変。芸術家の世界を少しのぞけた。
・季節で全然違う。桜もだが、アジサイもすごいです。見どころが季節によって異なるので、ぜひ来ていただきたい。今回の窯のできたものは、6月以降にギャラリーに並ぶ予定。
・個人的に、作られている器をほしいと思いました。同じ県内に酒都西条とかありますが、日本酒とぐい飲みのセット商品とかあると面白いと思いました。
・軽くて割れないお洒落な器を作ってください。
・藤田さんとは同じ町内だが、分かっていなかったことも分かった。穏やかな人柄で、周囲と繋がりながら、コツコツと自分の事業に取り組んでおられる。こういう方が地域に入ってきてくれたことがありがたい。
藤田さん:神石高原町を選んだのは、陶芸ができるところというところで、涼しいところだったということがポイント。この地に来て、野菜もおいしいし、都会では得られない環境。私の実家は茨城県だが地震が多い。神石高原は地震や災害が少ない。生活の基盤として生きていくうえで生きやすい。妻も含めてプラスだなと考えている。神石高原町にも貢献したいという気持ちがあるし、そのためには、ここで私が活動し続けるという事が大事だと考えている。今日は、いろいろな助言もいただき応援のコメントもいただいた。今後も暖かく見守ってほしい。
クロージングで共有した参加者の思いの中には、藤田さんへの取組への好意的な助言や応援が多く含まれており、暖かい雰囲気の中で、今回のMeet upを終えました。
あとがき
藤田さんの穏やかな佇まいや淡々とした語り口から感じ取れる人柄や姿勢に惹かれて、Meet upの中でも、藤田さんの取組や製作されている作品に対する好意的な助言や応援のコメントが多く寄せられていました。藤田さんのお話の中で、地域の関係者と上手に関われていたり、地域資源をうまく活用できていることが窺える内容が多かったのも納得です。
前回と同様、実践者自身がそもそも力を持たれているということはあるのですが、地域の魅力と人の魅力の相乗効果というか、関係者との良好な繋がりや自然環境の良さといった神石高原という地域の強みが、そこに在る実践者やプロダクトの力をより強くしている、藤田さんの取組の魅力をより引き出していると感じました。